logo-kenford icn-cart icn-link icn-map

CONTENTS

コラム

『靴職人と魔法のミシン』に見る、靴が叶える「変身願望」

「オシャレは足元から」という言葉をよく耳にします。オシャレの始まりであり、そしてオシャレの完成に欠かせないのが、足元のチョイスです。

そんな靴をテーマにした映画が、2015年公開の『靴職人と魔法のミシン』です。

主人公は、マンハッタンの街角で、代々続く靴の修理屋を営む男、マックス・シムキン。彼はある日、物置に眠っていたある特殊な旧式ミシンを見つけます。マックスはその旧式ミシンで修理した靴を履くと、その靴の持ち主に変身できるという驚きの能力を知ることになります。

そのミシンを使って平凡な毎日にささやかな刺激を求めるマックス。そして彼はその能力を使って高齢の母親にささやかなプレゼントを贈りますが、それがきっかけでトラブルに巻き込まれることになってしまいます。

今作では、他人になってみたいという「変身願望」を靴を履き替えることによって実現させています。

「あの有名人になってみたい!」「1日だけ友達に変身して、彼(彼女)の人生を過ごしてみたい」思いの強さは人それぞれであるものの、こんな願いを胸に抱いたことがある人は、少なくないのではないでしょうか?

私も、可能であれば憧れのあのハリウッドスターの1日を過ごしてみたいものです。その多忙さとプライバシーのない生活に、1日どころか数時間で音を上げそうですが…。

それはさておき、『靴職人と魔法のミシン』を初めて鑑賞した時、変身のきっかけとなるものが「靴」であることに、私は強烈な「共感」を覚えました。

ファッションというのは、多かれ少なかれ「変身」的な要素があると思います

朝、自宅から職場へ出勤するとき、多くの方は部屋着からフォーマルな服装になるでしょう。部屋着からスーツへ着替えを済ませると、自然と心のスイッチがオンになり、ピシッとした緊張感が体を包む感覚を覚えます。

それに対して、休日はどうでしょうか?

友人と会う時は少しラフな格好かもしれないですし、最近できたばかりの恋人と出かける時は、少しでも自分を良く見せようと、いつもより気合を入れたおしゃれをするかもしれません。

TPOに合わせてフォーマルからカジュアルまで、人は様々な装いに身を包みます。「自分がどんな状態でありたいか」「相手や周りにどう見られたいか」、これから出かける先や会う人、イベントやそこにいる自分を想像して、そこにいるにふさわしい姿になるためにおしゃれを考え頭を悩ませるのは、ファッションの楽しみの1つと言えるでしょう。

トップス・ボトムスと様々なアイテムを決める中で、靴というのは一層特殊なアイテムだと思うのです。

服よりもフィット感が強く、一歩一歩道を踏みしめるたびに、靴と地面の質感が、ダイレクトに体全体へ伝わります。足裏から伝わるそれらの感覚は、衣服以上に私の感覚を鋭敏にし、今の自分の気持ちをダイレクトに表現してくれます。

のんびりと歩きたい時はカジュアルなスニーカーですし、夏であれば開放感のあるサンダルを履くのもいいでしょう。

その中にあって、革靴が体に伝える感覚は、他のどのシューズよりも私の意識を刺激します。

室内やアスファルトの上を歩く時に聞こえる靴音。キュッと締めるような、ポールジョイントの程よいフィット感。それら全ての感覚を味わいながら歩いていると、普段の道、普段の自分が、少しだけ上質なものに感じられてくるから不思議です。

「オシャレは足元から」。足という目に入りにくい部位なはずなのに、足元のチョイスが今の気持ちとフィットして初めて、私の変身は完了へと至ります。

私にとって、革靴を履くというのは日々の生活で密かな「変身」を実感できる、ちょっとだけワクワクする瞬間なのです。

靴職人と魔法のミシン トレイラー(2015)

筆者Profile
サトートモロー 出版業界出身の映画ライター。ライフスタイルに関するコラムや映画批評を執筆。
大のお酒好きですが痩せるために絶賛断酒中です(笑)
趣味:映画鑑賞・ウィンドウショッピング・格闘技
その他:外出時はオシャレで癖のある書店をよく探しています。
一覧に戻る